放射性物質の畜産への影響と対策を議論
2012 年 11 月 10 日
家畜衛生学会は11月9日、都内で家畜衛生フォーラム2012を開いた。フォーラムは「家畜と食品の放射能汚染を考える」で、放射性物質の農業や畜産、食品への影響を原発事故以降続けられている調査・研究データを元に5名の研究者が最新の技術と知見を紹介した。
以下は、フォーラムの概要。
東京大学大学院・中西友子教授は「放射能の基礎知識および農業への影響」を講演し、放射性物質と放射線、放射能の基礎知識を紹介したほか、原発事故以降、福島県をはじめ東日本各所で行なっている調査内容を発表した。中西教授によれば、放射性物質は他の物質と強固に結合し、水洗や煮沸、溶剤等を用いて洗浄しても洗い流すことは困難だという。このため、イネなどでは原発事故以降に植えたものでは土壌と放射性物質が強固に結合しているため、放射性物質を吸い上げる可能性は低いと説明した。
畜産草地研究所の塩谷繁家畜飼養技術研究領域長は「放射性セシウムの飼料および堆肥への移行」を講演し、飼料中への放射性セシウムの移行リスクを低減する技術(反転耕)などを紹介した。塩谷領域長は「反転耕などの放射性物質低減技術は、良質粗飼料生産の技術と一致することが幸い。良質なものを生産することで、同時に放射性物質のリスクも低減することができる」と発表した。
畜産草地研究所の竹中昭雄家畜生理栄養研究領域長は「畜産物への放射性セシウムの移行とその対策」を講演し、放射性物質対策としてとくに、家畜の飼養管理の面を説明した。このなかで竹中領域長は生乳中への放射性物質の移行を低減するため、各種吸着剤などの効果などを報告した。現在、国内の酪農場で使えるものとしてはゼオライトが知られているが、紺色の色素の一種であるプルシアンブルーという物質がより移行リスクを低減すると発表した。またプルシアンブルーは給与量もゼオライトの1/100で良いことも特徴だという。現在、プルシアンブルーは飼料添加物等の認可を受けていないので一般に利用できるものではないが、海外ではプルシアンブルーを添加した固形塩も商品化されている言い、国内での利用が可能になれば、酪農現場におけるリスク低減策の一つになりうるものだ。
東北大学加齢医学研究所の福本学教授は「警戒区域で何が起こっているか?牛における放射性物質の動態」を講演し、原発事故以降、福島県の警戒区域内で殺処分対象となった乳牛などの内部被ばく状況などを説明した。福本教授らの調査は牛、豚、猪だが今後、野生動物も対象に広げることで、環境汚染と体内蓄積、放射性物質の臓器内分布などを知り、一般の放射線防護に役立つ研究としたいと話した。
食品総合研究所の川本伸一食品安全研究領域長は「放射性物質の食品への影響とその測定方法」を講演し、農産物が加工・調理される過程で放射性物質がどのように動くかなどを発表した。
TrackBack URL :
Comments (0)