長期雇用のために

先日、京都府のB牧場を訪ね、酪農場の雇用管理について伺いました。
B牧場は「スタッフの心と体とともに、家族の健やかな暮らしを守りたい」を信条にスタッフのワークライフバランスの向上などさまざまな取り組みを行なっています。代表のTさんは、「スタッフの心や体に余裕がないと、スタッフ間で技術を教えたり、教わったりすることが難しくなる」──そう実感したと言います。
さまざまな取り組みの詳細はDairy Japan5月号でご紹介しますが、実にユニークな制度の設計・導入のほか、スキルアップのための制度の導入など、農場全体のレベルアップにつながるヒントが盛りだくさんでした。
スタッフには長期で働いてもらいたい──そう考えたとき、考えるべきことの一つが人それぞれのライフスタイルと時々に訪れるライフイベントを考慮すること。今回の取材を通じて、そのことを強く感じました。
詳細は4月下旬にお届けするDairy Japan5月号で。

堆肥を極めし者

四国は某所に取材で訪れたときのお話です。

酪農場で出た糞尿は地域の堆肥処理センターに委託してとても助かっている。とのことで、訪ねてみました。

そこには100m×2の大きな施設があり、管理する皆さんの堆肥に対する考え方に感動しました。

同センターでは、発酵促進剤など人の手で外から何かを添加することは一切ないのだそう。

牛の腸の延長線をここで再現しているとのことでした。

菌、バクテリアが活発に活動する環境を実現するのに何年も試行錯誤を重ね、今ではできた堆肥は地域の畑に還元され活躍しています。

堆肥が良くなると作物も美味しくなるようで、さらにその堆肥は牛が良い糞尿をすることが大切なようです。

そのためには牛を健康に育てなければ。ということですね。

まさに、糞尿は宝ということを体感しました。

牛は選べない

堆肥の温度を測りながら「ひいては乳房炎予防にもつながるんです」とSさん。その理由は「良いものを畑に入れなければ、牛の健康度が上がる良い草が採れないから」と言います。
Sさんはそのことを、ほうれん草農家から教えられたそうです。
そのほうれんそう農家いわく「人間は自分が食べる野菜を選べるけれど、牛舎内の牛は酪農家が与えてくれる草しか食べられないでしょ。だから良いものを与えなければ!」。
とても印象深いエピソードでした。

強い危機感を共有すべきとき

「このままでは酪農は立ち行かなくなる」──先日、1本の電話が入り、詳しくお聞きするために香川県に飛びました。
周知のとおり、エサの価格は急騰、そして高止まり。粗飼料の入手も困難を極め、粗飼料販売業者の方からも「業者間でなんとかやり取りして、酪農家さんのもとにお届けすることで精一杯。モノがない」と悲痛な声を聞きます。加えてエネルギーコストの上昇や肥料価格の高騰など、生乳生産コストはここ最近、急激に上がっている──多くの酪農家の皆さんが実感していると思います。
これらのコスト増の背景には、世界規模の新型コロナウイルス感染症の蔓延と見えない収束、それによる国際的な港湾・船便の混乱、それに加え、直近ではロシアによるウクライナ侵攻が国際社会を混乱させ、原油や穀物をはじめとするさまざまな取引価格が短期間に急騰するなど、さまざまな事柄が複雑に絡み合っていると思いますが、生産現場から見れば、まさに災害です。また国内に目を向ければ、新型コロナによるインバウンドを含む国産生乳の需要減と乳製品在庫の積み増しなど、生乳需給は緩和傾向にあり、酪農乳業にはネガティブな要因となっています。
こうした背景を考えれば、コスト増要因は短期に解決するとは考えにくいのではないでしょうか。
3月に入り、多くの食品や生活用品は相次いで値上げを発表しています。コスト増を自助努力で賄う限界を超えたというのがその理由。
酪農も乳業も、それぞれ製造コストが上がっていることは明白です。
今回お話を伺った酪農家さんは、「乳価、製品価格の在り方を再検討すべき」と言い、そのために「酪農家は危機感をもっと高め、自分たちの実態を消費者に伝えていくべき」とも加えます。
そして耕畜連携による地域産粗飼料生産・利用の拡大、未利用資源の積極活用などによる努力も一層強めていく必要も強調しました。
このままの状況で進めば、とくに都府県で多数の離農が発生し、生乳の安定供給に支障をきたすことは火を見るより明らかといえるのではないでしょうか。消費者に安全で安心な牛乳乳製品を、安定的に供給する──これは食糧安全保障を考えるうえでも重要なこと。ぜひ、努力で賄えないぶんのコスト増をどのような形で埋めていくのか、業界全体で強い危機感を持ちながら良案を探りましょう。それはきっと、将来の酪農にもプラスになるはずです。
(写真はイメージです)