カテゴリー: 取材後記
シカ柵
北海道ではエゾシカによる農業被害が常態化しています。
釧路管内のI牧場は昨年、高額の投資を覚悟し、約40haの更新草地の周囲にシカ柵を張り巡らせました。
すると、「新播はこれほどきれいに生え揃うものなのか!」とIさんは驚き、「反収が2~3割増えた!」とさらに驚いたと言います。
そして、「鹿はリード(カナリーグラス)を食べない。つまり鹿が食べ残した栄養価の低いリードを牛に喰わせ、栄養価を上げるために購入飼料を増やしてコストを上げているようなものだ」と嘆いていました。
粗飼料自給率を上げるためには、鳥獣被害対策事業の拡充も必要ですね。
お金をかけるべきところはどこ?
飼料コストの高止まりによって、酪農経営は厳しい局面を迎えています。そんなとき、コストダウンはもちろん大事ですが、中期的に経営基盤を強化する投資も同時に考えたいもの。
そこで先日、本誌でおなじみの広島大学・杉野利久先生らと経営改善をテーマに座談会を開きました。
都府県では、導入牛によって乳牛を更新し、F1やET産仔で現金収入を得る経営も見られます。しかし、子牛と初妊牛の価格バランスは以前とは異なり、今ではそうしたモデルでは導入が厳しく、更新が進まないケースも。
そこで、投資すべき部分として杉野先生は自家育成と長命連産をあげました。
もちろん、導入主体の経営をいきなり自家育成型に切り替えるのは、初期の施設・設備投資、そして資金の回転の変化からリスキーなもの。段階的に自家での育成割合を増やすという前提。
そのうえで杉野先生は、育成頭数を少なくすることも大切だと言います。
具体的には、飼養管理技術の向上によって、平均産次を伸ばすこと、そして哺育・育成管理を向上させて初産分娩月齢を適正化させること(多くは短縮の方向へ)。
初産分娩月齢を適正化させるには、闇雲に初回授精を早めるのではなく、ターゲット・グロースに基づいて哺育・育成管理を見直すことがポイントと加えます。
平均産次を伸ばし、育成期間を適正化させ、性選別精液などをうまく活用することで必要な育成頭数を絞り込めれば、F1やETによって個体販売の売り上げをあげることも可能です。つまり、自家産後継牛で更新を確保しつつ、現金収入を得るというもの。
経営がひっ迫しているときこそ、さまざまなことを見直すチャンス。ぜひ、ご自身の経営も一度見つめ直してみてはいかがでしょう?
※ターゲット・グロースについては、本誌臨時増刊号『Dairy PREOFESSIONAL VOL/12』の特集Part3に詳しい解説がありますので、ぜひご一読ください。
飼養密度
目標とする飼養密度は搾乳牛群も乾乳牛群もベッド数の85%以内としているK牧場です。
85%の理由を聞くと「自分が牛だったら、このくらいなら安心して寝られるから」と笑うKさん。
85%の搾乳牛舎を見わたすと、なるほど納得。
空いているベッドがすぐそこ・ここにあり、少し歩けば居心地の良い寝床でゆったり寝られます。
高乳量(平均41kg/日)・繁殖好成績(妊娠率34%)は、こうした飼養環境も影響しているはずだと思いました。
詳しくは、本日発売のDairy Japan 10月号で。