農と食のストーリーで感動させる:東北地域の復興・活性化シンポ、開かる

2012 年 1 月 22 日

Filed under: — admin @ 10:07 PM ニュース

1月22日(日)、宮城県仙台市内で「東北地域の農山漁村の復興・活性化に向けて」シンポジウムが開かれた。参加者は約200名(共催:東北農政局、農林水産政策研究所)。これは、東日本大震災からの農林漁業の復興に向けた課題を出し、討論しようというもの。

基調講演で、筒井信隆・農林水産副大臣は、昨年秋に公表された「我が国の食と農林漁業の再生のための基本方針・行動計画」について、同方針はTPP交渉参加とは別問題のものとしたうえで、「利益のあがる農業・漁業の創出が東北の復興につながり、その一つの手段として再生可能エネルギーの促進があるだろう」などと述べた。

農林水産政策研究所からは「農漁業再編と集落コミュニティの再生:過去の災害復興事例から学ぶ」(吉田行郷氏)、「6次産業化の展開方向と課題」(小林茂典氏)、「木質バイオマスエネルギー導入の効果とその評価」(林岳氏)の3題が報告された。

シンポジウムは、金子勝氏(慶応義塾大学教授)をコーディネーターに、1)災害からの復興、2)再生エネルギー、3)6次産業化 の3つを柱に、パネリストから意見が出された。

「有機栽培で果樹園を営み、消費者との交流などを通して直接、生産物を販売している。風評被害などもあり、農地の除染を早急に行なって欲しい。除染が進まないと顧客が離れてしまう」(安齋さと子氏:株式会社安齋果樹園代表・福島県)

「環境と経済が両立する社会システム、地域づくりをめざして研究している。その一つとして、間伐材を利用した木炭発電の実用化などのプロジェクトを進めている」(両角和夫氏:東北大学大学院農学研究科教授)

「養豚と食肉製造、レストランなどを展開し、地域の資源を利用した「ここでしかないもの、オンリーワン」の循環型の農業=食業をめざしてきた。今後、エネルギーも循環の中に入れていきたい。TPPは、農業だけでなく国民全体に関わるのに、歪曲化されて議論されているのは、農業からの情報発信力が弱いのが一因だ。農と食のストーリーを楽しく語り、消費者を呼び込むこと、農を体感させることが大切だ」(伊藤秀雄氏:有限会社伊豆沼農産代表・宮城県)

「震災による食料備蓄調査を行なったが、家庭の3分の1が備蓄をしていると回答していた。今回の震災の大きな課題は雇用の場が失われたこと。農の基本である土壌が汚染された。原発は復興するうえで避けて通れない課題だ」(森田明氏:宮城大学食産業学部准教授)

「東北には風力発電の可能性が十分にある。畜産バイオマスも実用化した。ないものねだりではなく、「あるもの探し」を徹底して行い、葛巻高原牧場は預託牛約3000頭を預かっているほか、チーズ、牧場体験、グリーンツーリズムなどで日本一の公共牧場となった。すべてのエネルギーを風力、太陽光、バイオマスで自給することをめざしている」(中村哲雄氏:葛巻町畜産公社顧問、前葛巻町長・岩手県)

これらの意見を総括し、金子教授は、「21世紀は地域分散型の社会となっていくだろう。その意味で、パネリストからは次代の社会を創造していく力を感じた。今まで遅れていると思われていたものが、次は先頭を走るのではないか」などとまとめた。

*関連記事
「ミルクの本2011」 2011年増刊:牛乳乳製品の普及と今日的な課題(森田明氏)
本誌2011年12月号 マイオピニオン:「農業」から「食業」へ変える(伊藤秀雄氏)

*取材メモ:「大量生産=規模の経済性」と「高付加価値=プレミアム」との選択で伊藤氏は後者を選んた。一方で、それは結果として、メインの顧客が富裕層になりがちで、市場は限定的になり、販売リスクも大きくなる。そのことを森田教授は指摘した。この構図は海外産品との競争だけでなく、国内の産地間競争でも同じだ。農の価値は、パンフや通販だけでは伝わりにくく、農の実体験によって肌身で感じるものだろう。それが可能な生産農場は、記者の知る限り、数少ないと思われる。今回のシンポはテーマが幅広く、焦点がまとまりにくかったが、記者は、政策や行政は6次産業化を復興のメインフレームに描いているように感じた。しかし、過度にこれに期待できるものではないと思われる。(文責:関東支局)

Copyright (C) 2005 Dairy Japan Corporation. All Rights Reserved.